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五泉市複合施設「ラポルテ五泉」

五泉市複合施設「ラポルテ五泉」

みんなで使える、みんなが繋がる、みんなのステージ

2025.12.11

インタビュー

 

2021年、新潟県五泉市に誕生した複合施設「ラポルテ五泉」。
五泉ニットをはじめとする産業振興、文化、子どもの遊び場など、市民の夢と構想が詰まったこの施設は、どのようにして実現したのでしょうか。本対談では、プロジェクトを牽引した3名が、設立への道のり、デザインに込められた想い、そして未来への展望を語ります。

香山建築研究所
代表取締役所長
長谷川 祥久

1962年生まれ。東京理科大学 工学部建築学科卒業後、香山 壽夫+環境造形研究所(現・香山建築研究所)入社。彩の国さいたま芸術劇場、神奈川芸術劇場、東京芸術劇場(改修)など数多くのホール・劇場の建築計画に携わる。

合同会社ソフト・エッジ
代表
高明 里江

東海大学大学院工学研究科 建築学専攻修了。
砂糖消費拡大推進事業やデジタルコンテンツEXPOなどの中央省庁や企業の広報プロジェクトのプロデュースの他、公共施設の企画・設計・デザイン等に多数携わる。

株式会社FABRIKO
室長・チーフテキスタイルデザイナー
澤村 祐子

女子美術大学大学院修了。劇場ホールや議場、学校などを中心に、全国で400件以上の公共施設のイス張地のデザイン・提案を行なう。東京芸術劇場、横浜アリーナ、札幌文化 芸術劇場hitaru、那覇文化芸術劇場なはーとなど。

地域の想いを形に。

「ラポルテ五泉」は、どのような経緯で進行されたのでしょうか。

(長谷川氏) 複合施設「ラポルテ五泉」設立への提案にあたって新潟県の株式会社鈴木設計企画さんから「一緒に組んで出しませんか」とのオファーをいただき、ありがたく共同企業体制での参加というスタートをきりました。目的は、五泉ニットを含めた産業振興、劇場、冬は積雪で遊べなくなる子どもの遊び場を屋内にも作りたい。みんなが集まって活動できる場所を作りたいという思いが根底にあることを理解しました。ただ、これを全て実現するには、床面積が足りない。そこで、それぞれの空間を区切らず、その時々に応じて空間をフレキシブルに使えるよう、販売エリアは固定の壁で仕切らず可動の間仕切りに。また、ホール内も移動観覧席を採用。一部の壁は可動にすることでロビーや中庭と一体での利用も実現しました。空間の使い方を限定せず、「未来の使い方をみんなで考える」という私たちからの提案です。
 
(高明氏) 具体的にはまず、ニットの売り場をどう作るか、について長谷川さんからお話がありました。そこで、五泉市内のニット工場の見学から始めました。いくつかの工場を見学し、実際に日本のトップとして世界に通用するものを作っていて技術力の高さが実によく分かり、驚きと発見がありました。そこで単に展示や販売だけでなく、建築の一部としてニットを使うという観点から始めてみようということで、最初にタペストリーや、絹織物をパーテーションとして活用する展開を検討。加えて刺繍をサインに使うことを考案。ソファーやイス、クッションなど様々な装飾にもニットや絹織物を採用することを考えました。木の柱にニットを巻き付けた「ニットの柱巻き」は、館内随所でご覧いただけます。カラフルに並ぶ様子が大好評です。



色んな案を口に出し、色んな事が実現した。
アイディアは、磨かれる。

(澤村氏) 長谷川さんからお話をいただき、アパレルを主に生産している五泉のニットで劇場のイス張地の製作は大変そうだな、という印象と同時に、実現したら面白いものができそうだとの思いからチャレンジ精神が高まっていきました。
 
(長谷川氏) これまで劇場のイス張地をニットで編むことは、五泉市では行われていないので、これは大きな挑戦。実現すれば偉業です。開発・試作に擁する時間は必要でしたが、劇場イスに適応する耐久性を高める特殊な糸を提案いただきました。
 
(澤村氏) 熱で収縮する糸です。編み上がった後、高熱の蒸気でギュッと縮めて厚みと強度を高める作り方です。糸や密度などを調査し、製作していただく嘉村工場さんにお伝えしました。デザインは、ご要望の2つの方向性で提案し検討。ひとつはニットらしさを全面に出し「セーターを着たイスに見える」がテーマの「ケーブル編み柄」。もうひとつは採用された、五泉の豊かな水、水の流れ、透明感。見る人によっては雪や桜にも見える「花雪柄」です。




色に深みを出すため、微妙に異なる青系の糸を2色使用し、ニットならではの凹凸感を浮かび上がらせ有機的なゆらめきを際立たせます。そして飲食利用の可能性もあるということで、イスの背はニット張地、座はレザーでご提案しました。何度も五泉に足を運び、試作検討を重ね、まずは、物性試験をクリアした上で要望のデザインをきちんとカタチにしていくことを大切にして進めました。
 
(高明氏) みんなで話し合い決めていくプロセスは、成功させるうえでとても大事なことですね。
 
(長谷川氏) その他、議論のきっかけにするために、最終的なイス2案のニットのデザイン、座のレザーの組合せを現場の方、市の方に投票という形で意見を聞いたりもしました。投票理由のなぜ?を聞くことが面白い。そういった過程を経て、より五泉らしいデザイン・カラーのイスが、採用されました。

五泉のもつ魅力に触れる。
皆さんの五感に心地よく響くように。

今回のプロジェクトを振り返ってみて、いかがでしたでしょうか。

(澤村氏) 「ラポルテ五泉」は市民にとって待ちに待った市のホール。皆さんにとって誇りとなり、長くご利用いただくために五泉ニットのイス張地の耐久性をベースに置き、その上で五泉らしさを表現することに注力しました。進行は山あり谷ありでしたが、地元の嘉村工場さん、五泉ニット工業協同組合さんの多大なご協力により、大いなる成果に結びついたと確信しています。
 
(長谷川氏) やはり大事なことは、途中で諦めることなく、柔軟な体制と固い信念をもって、走りきるということでしょうか。
そして我々の手が離れても「ラポルテ五泉」が、繋がりの場としてだけではなく、さらに新しい仕事が生まれ、産業にまでなる場になれば、こんなにいいことはないですよね。
 
(高明氏)多くの地元の方に楽しんで参加してもらうことが私のミッションです。楽しみながら地元の産業に触れられ、今後に繋がっていく場所づくりに貢献できたことと思います。もちろん私たちも楽しんで仕事をさせていただきました。


情熱が重なり、新たな局面は未来へと続いていく。

今後の展望をお聞かせください。

(高明氏) ソフト(情報精査・企画)とハード(技術・施設)をいかに本質的に一体化させていくかを、さらに発展させていきたい。今回、人を巻き込むことで情報発信できることをより実感したので今後に生かしたいと考えています。
 
(澤村氏) イス張地を基軸に他の内装やテキスタイルの提案へも繋げたいと思います。今回のような産地と共に協働することを含め、各地域や施設の「色」を出し、PRやブランディングにも貢献できるデザインやものづくりを目指したいです。
 
(長谷川氏) 一貫した思いがあります。それは器を作っているということに帰結します。そこで美しい器が使われ、使っている人が喜びに満ち、さらに先に進むというステージを作っていく。世の中の色んな人が、色んな人のままでいてくれる状態をどうしたら作れるだろうか、を胸に。
 
◼️ラポルテ五泉は2021年グッドデザイン賞を受賞しました。
ラポルテ五泉|グッドデザイン賞  WEBサイト


column:産地のおはなし

有限会社 嘉村工場

嘉村吉夫(President)
嘉村満智子(Managing Director)

インテリアへの挑戦。
五泉ニットでシートを編む喜び。

私共ニット製品製造の会社「嘉村工場」は、私、嘉村満智子の五泉出身である父母が初代で開いた会社です。“人がやらないもの、技術が難しいものを作る”がモットーで、高度な技術が必要な製品を早くから考え、実行していました。その精神を引き継ぎ、アパレルニット製作が私共の主要事業ですが、今回、いつもとは違う劇場イス張地の製作を試みました。オーダーにお応えするために試作・やりとりを重ね、様々な苦心はありましたが、新分野を開拓できたものと感じています。また、イスが並んだ様子を目の当たりにして、イスとニットの一体感、新たな挑戦の喜びとともに「いい仕事をご一緒させていただいた」と夫婦・スタッフのみんなで、そう実感しました。

取材:2021年12月
このインタビューは、コトブキシーティング株式会社のパンフレット「Hall being with community」に掲載されました。

居室データ